2016年4月1日金曜日

診療科の魅力 ~内科編~

リウマチ膠原病内科部長 花岡亮輔
医療を志す諸君にとって、内科臨床研修は避けることのできない道である。これを試練とするか、チャンスとするかは諸君次第だが、内科学をこよなく愛する小生としては、是非この機会を有意義に過ごして欲しい。そのために有益なポイントを3点挙げる。ひとつはサイエンスとしての内科学、次にアートとしての内科学、さらに医療の主催者としての内科学についてである。


1.EBM~サイエンスとしての内科学
医療には、サイエンスの側面と、アートの側面が存在すると言われている。サイエンスの側面を最も良く体現している潮流がEvidence based medicine (EBM) である。しかし、EBMは未だ発展途上のシステムであり、現時点では常に正しく理解され、利用されているとは言い難い。このシステムを理想的に具現化させるには、臨床判断学および臨床統計学の発展と、これらに対する個々の医師の深い理解が必要である。
内科は医療界において最も早くからEBMが浸透した科である。当然、学ぶべき疫学研究の題材は多く、臨床研究論文の読解に必要な知識を擁する者も多い。よって、医療のサイエンスの側面を学ぶために、内科は非常に優れた機会を提供してくれる。


2.問診技術~アートとしての内科学
他方、得られた医学知識を患者に還元するために、必要不可欠な技術の洗練はアートである。アートの側面は大変に深遠であり、習得には謙虚、誠実、勤勉を欠か
すことができない。
問診技術や理学的診察法は全ての医師に共通するアートである。これらは一見初歩的作業のように思われるが、実は極め尽くせぬほど深遠なものでもある。そして、その技術を最も重要視しているのは内科である。
発症したその日の夜、何が起きたのか?どんな風にして異状に気がついたのか?本当に患者が苦痛に思っていることは何なのか?どんな変化が、患者に救急車を呼ばせたのか?何かの理由で話していない、重大な情報があるのではないか?…考えるべきことは山ほどある。内科ではベテランになるほど問診と理学的所見を重要視する傾向がある。その方が、はるかに情報量が多いからである。
こういったベテラン内科医たちのアティテュードとスキルは、書物のみからは学びがたい。間近に感じることである。それは今後諸君がどのような道に進もうとも、大きな財産になるはずである。


3.トータルマネージメント~医療の主催者としての内科学
現在の日本の医療において、最も多く望まれている医師像は何だろうか?おそらく、単一臓器のみを治療対象とする医師よりも、患者の身体・心理を包括的に診療する、懐の深い医師であろう。
臓器別専門分化が進む以前、この役目を果たしたのは内科医だった。内科疾患の多くが慢性である以上、内科医たちは、病める人々の人生に併走する宿命を負わざるを得ないからである。その場合、内科医と患者の間にはいくばくかの心理的紐帯が生じ、患者は健康に関するあらゆる問題を(腰痛、老眼、健康食品まで!)、まず内科医に相談するようになる。また、内科医のほうでも自分の専門領域のみに話題を限定することはできなくなる。こういった過程の当然の帰結として、内科医はあらゆる医療の起点となり、医療のトータルマネージメントを多かれ少なかれ手がけざるを得ない。いわば、医療の主催者である。
最近は内科の臓器別細分化が著しく、こういった魅力が薄れているように見えるが、時代はさらに変わりつつある。限りある医療資源を有効に使用するためには、専門領域との適切な連携を持ちながら、多くの疾患を長期間一括管理する役目を誰かが果たさねばならない。困難だが名誉あるその立場は、内科が担うべきものである。
以上、諸君が内科を研修する上で、学び甲斐のあるポイントを3点列挙した。一人でも多くの若者が、我々の仲間に加わり、新時代の内科学を築いてくれることを願ってやまない。